大荒れ!米大統領選第1回討論会トランプVSバイデンの論点と主張

大荒れ!米大統領選第1回討論会トランプVSバイデンの論点と主張

1.米大統領選の第1回直接討論会

米国時間で2020年9月29日(日本時間では8月30日午前)、11月3日近づいたアメリカ合衆国大統領選挙の候補者であるトランプ現大統領(共和党、74才)とバイデン元副大統領(民主党、77才)の第1回直接討論会が実施されました。

従来からその破天荒な姿勢が注目を集めるトランプ大統領が、頻繁にバイデン候補の発言を遮り、司会者の制止も無視するなど大波乱となりました。

内容的には両候補とも相手からの質問に真っ当に答えないなど、一番の視聴者である米国民にはいささか物足りない内容だったと考えられる討論会となりました。

11月3日(火)に予定される投開票日まであと1か月と迫った今、どんな課題があり、両候補がそれぞれどのような主張をしているのかをまとめて見ました。

1-1. スケジュール

2大政党制をとる米国の大統領選では、民主党と共和党がそれぞれ候補者を指名する段階から大統領選が始まります。これはまずは同じ党内の候補者同士での指名獲得競争となります。

今回は2020年2月3日の民主党のアイオワ州大会が事実上の幕開けとなりました。その後多くの週が投票を行う「スーパーチューズデー」(今回は3月3日)を経て、6月5日にジョー・バイデン副大統領候補が正式に民主党の候補者指名を獲得しました。

共和党は現職のトランプ大統領が続投の意思を表していたために、8月24日から27日に開催されたの党大会でトランプ大統領が共和党の候補に指名されました。

今後

・10月7日(水) 副大統領候補者討論会

・10月15日(木)第2回大統領候補者討論会

・10月22日(木)第3回   〃

を経て、

・11月3日(火) 投票日(「11月の最初の月曜日の次の火曜日」がルール)

国連の推計では2020年の米国の総人口は約331百万人です。前回の大統領選では2億3千万人程度が18歳以上の有権者として登録し、実際にはその6割程度の投票で選出されています。

1-2. 第1回討論会の概要

米国時間29日夜の第1回の討論会は、中西部のオハイオ州クリーブランドで行われました。司会はフォックスニュースのクリス・ウォラス氏。

約90分の討論会は現職のトランプ大統領が頻繁にバイデン元副大統領の発言を「それは違う」「それは嘘だ」等といった形で遮り、それをさらに司会が遮ってバイデン候補に発言を引きもどしたり、互いに「嘘つきだ」「いやそっちが嘘つきだ」等とののしりあうなど、例を見ないほどの大荒れとなりました。

一方で、双方とも相手に指摘された疑惑(トランプ大統領:税金逃れの疑惑、バイデン候補:息子のロシアからの献金疑惑)については十分には答えないなど、双方が従来の主張を繰り返したにすぎず、米国民にとっては新たな判断材料となる要素には乏しかったと考えられる結果となりました。

1-3. メディアの評価

これに対して、同日のNHKニュースでは

・慶応義塾大学 渡辺靖教授の意見  “バイデン氏が優勢”

・明治大学 鈴木健教授   “トランプ大統領が優勢”

・上智大学 前嶋和弘教授  “勝ち負けつかず”

等と報じるなど、各所で激しいやり取りのみが際立った一方、米国の将来への期待をどちらかの候補が集める討論会にはならないものに終始したことがクローズアップされています。

一方NHKの別のニュースではテレビでの推計視聴者は73百万人(有権者の1/3前後)であり、過去の討論会の中で3番目の多さであり、ネットでの視聴などを含めればさらに多かったであろうとも報じています。

10月1日の日経新聞の朝刊の見出しは「米分断映す混沌の討論 大統領選」

「「コロナ」「人種」で激突」「国の将来像かすむ」といったものとなり、混沌(混乱)として一方で将来像に対する十分な示唆は得られなかったという論調の記事となり「討論会ではなく「口論会」となった」と締めくくる等、大波乱の印象を裏付けるものでした。

その他、産経新聞は、米国の各紙がやはり今回の討論会が「史上最悪」や「国民の敗北」といった言葉で、言い争いばかりが目立って政策議論とならず、不適切なものであったと酷評していることを伝えています。

2.大統領選の論点と両候補者の主張

今回の討論会では整然とした議論にならなかったことは明らかですが、そもそも今回の米国大統領選の論点にはどのようなものがあり、それぞれの候補者はどのような意見を持っているのかを整理してみます。

2-1. 新型コロナウィルスについて

感染者700万人超、死者も20万にを超えるなど、日本とは格段の被害となりました。

トランプ大統領は現職大統領として、感染拡大は中国とWHOの対応の遅れ、情報の隠ぺいにあったと激しく非難しつつ、製薬メーカーにワクチンの製造を支援し急がせるなどの対応をとりました。当初は自身はマスクを着用せず、抗マラリア薬を服用していると報じられたりもしました。(記事)その後中国をはじめとした諸外国からの渡航禁止や2021年7月でのWHOからの脱退表明などを行っています。

これに対してバイデン氏は「当初からマスクを推奨していれば、最大で10万人が救われたはずだ」(記事)等とトランプ大統領の初期対応を非難しています。その上で民主党とバイデン候補は、国民全員への無料検査の提供と、感染者への接触者の追跡のために10万人規模の雇用で対応するとしています。

2-2. 経済対策について

トランプ大統領は追加関税等の貿易施策で国内企業を保護しつつ、国内法の規制撤廃や法人税、所得税の引き下げを進めてきました。

これは国内製造業での雇用の増加やGDPの成長などに表れている一方、今後についてコロナウィルス感染拡大の影響が長期化する懸念を持たれています。

バイデン候補は最低賃金の引き上げやグリーンエネルギー関連の大幅な投資拡大、国内製品の優遇施策やその他産業へも投資などを掲げている

2-3. 貿易について

現職のトランプ大統領は、就任時からアメリカファーストを唱え、メキシコ国境の不法移民防止の壁を築いたり、前政権から続いてきた環太平洋バートナーシップ(TPP)の議論から離脱するなど国内製造業を守る政策などを進めてきました。

特に対中国では5G通信技術の要となるファーウェイやZTE社などを排除した他、欧州や南米、隣国カナダなどにも追加関税を課してきました。

一方でバイデン候補は、中国には不公平な商慣習の改編などを求めつつも、他国を強く非難し追加関税を課すなどで排除していくのではなく、以前に自身が副大統領を務めた民主党政権のように、中国でさえも無視できないような世界的な協力体制を構築して行く、としています。

2-4.外交問題について

トランプ大統領は孤立主義ともいうべきアメリカファーストで突き進んできており、足下でも中国をはじめとした対共産圏はもとより、日韓への駐留米軍経費の大幅な負担増要求やNATO諸国への防衛費拡大要請、EUやカナダ、南米諸国への関税引き上げその他の経済負担の移転、気候変動に対するパリ協定やWHOからの脱退などを進めてきました。アフガニスタンからの駐留米軍の撤退やイランへの避難など、中東諸国との関係も緊張しています。

特に対中政策では、今年に入ってからコロナウィルス感染拡大の責任追及や香港での国家安全法案の成立に対する非難、台湾への厚生長官の訪問や国務次官の訪問検討などの強硬な姿勢を強めています。

一方でバイデン候補は副大統領時代に外交委員会の委員長として幅広い外交を行っていました。このため、各国と融和しながら進めていく方針は変わらず、諸外国との関係をむしろ修復しつつ、中国も巻き込んでいく方針です。 

2-5. 人種問題について

両候補とも人種差別を積極的に肯定する事はしていません。

実際にはトランプ大統領は人種差別的ではないか、との見方があり、討論会の中でも司会者がトランプ大統領に「白人至上主義者を非難する用意があるか」と問いかけられ「その用意はある」として特定のグループに行動を控えるように呼びかけるシーンがありました。

また白人警官による黒人男性の逮捕時の死亡事件に続いた「BLM(Brack Lives Mattter)」運動では軍の出動を示唆した件も、トランプ大統領が人種差別的であると捉えられています。

トランプ大統領自身が主張しているのは、メキシコ国境への壁の建設で注目を浴びた不法移民の防止と、親族を頼って移民してくる「連鎖移民」を廃止し、能力主義の移民制度に切り替えるという事であり、あくまで経済対策的な意味合いの強いものだけで、トランプ大統領が人種差別的であるとの見方は一部の組織が黒人暴動を煽ったためだという説もあります。

一方でバイデン候補は米国における人種差別の存在を認め、少数者支援の為の幅広い経済対策、社会対策の必要性を認めています。

2-6. その他の問題

その他にも、様々な論点がありますが、主なものは以下の様になっています。

・医療制度:民主党のオバマ政権がスタートさせた国民皆保険制度の「オバマケア」について、廃止を進めるトランプ大統領に対して、オバマ政権時代の副大統領としてオバマケアを守る立場のバイデン候補。

・郵便投票:大統領選での郵便投票は組織的な票の操作につながるとするトランプ大統領と、コロナ禍で国民に機会を増やすとして肯定するバイデン候補。

・相手へ指摘:バイデン候補の息子が事業において中国政府から便宜を図られ、バイデン候補が中国よりだとするトランプ大統領と、トランプ大統領が節税策を駆使して過去数年間で教員より少ないほどの税金しか納めていないと主張するバイデン候補。この点については2019年にトランプ大統領が(近い将来大統領選の対立候補になるであろう)バイデン候補の息子への便宜供与について、大統領の立場を利用してウクライナ政府に働きかけをしたとして2020年2月に米上院で弾劾裁判が開かれています。(共和党議員が多数でもあり結果は無罪評決)

またトランプ大統領はバイデン候補が学業の成績が悪かった、既に認知症の疑いがあるのではないかといった指摘も行っています。一方でバイデン候補はトランプ大統領が戦士米兵を負け犬と呼んで侮辱したなどとも指摘しています。(いずれも明確な証拠は示されず。)

上記のように、政策的な主張と国民(有権者)への心象形成(自分の心象を良くし相手の心象を貶める)の主張とが入り乱れており、目の前の事実と、その拝見が良く読み取れない状況が続いています。

3.まとめ

時あたかも新型コロナウィルスで世界中の死亡者が100万人を超える事態となった2020年。
第1回の直接対決となった討論会は結果的に大荒れとなり、主催者が今後の開催時のルールの変更を検討するほどの事態になりました。

その中で1か月後に迫った大統領選挙の投票日。世界的で最も影響力を持つ国のトップを決める選挙なだけに、事は単に米国だけの問題にとどまらず、今後数十年間のスパンでの世界の在り方にも影響をあたえるものです。

日本からも第46代大統領の二人の候補者の主張と、その選挙戦の成り行きを注視深く見守っていきたいですね。